◆◆◆NATIVE * VISION◆◆◆
目。それは外からのデータを脳に伝える器官。 レンズ。コーニア。アイリス。ピューピル。アンテリアーチェインバー。レティナ。 結果、見える。 俺にとって目とは、それだけの器官だった。 …―――― 五飛に出会うまでは。 ガンダムパイロットは皆、感情を隠すのが上手い。その瞳に感情を表さないことができる。 けれど五飛は違う。まっすぐに人を見て、そして何も隠さない。 実は漆黒に見えるあの瞳は、間近で見れば至極黒に近い、こげ茶色をしていることを俺が知っ たのはごく最近のことだ。 そのことは、近付かなくては分からない。それを知っているということは、それだけの接近を 許されたということで、もったいなくて誰にも教えない。 俺以外は五飛の本当の目の色を知らなくていい。 あれほどまっすぐに俺を見る人は他にいない。最初は戸惑ったが、今では注がれて、一番 気持ちのいい視線だ。 五飛に見つめられると、心の底の底まで見通されているような気分になる。そして同時に五飛 の目が、それが光を通すレンズでなく、五飛の心の一部でもあるような気がしてくる。 …―――― それは本当にきれいな澄んだ瞳なのだ。 いつものように鍛錬に励んだ後、シャワーを浴びてさっぱりとした五飛が向かい側に座る。 「ウーフェ…――――」 「お前…目をどうした?」 「ああ、さっき埃が入っただけだ。大したことはない」 「目薬があったな、確か。持ってこよう」 ところが。 「いらん!!目薬はあまり好きではない」 「好きとか嫌いとかの問題ではないだろう。こじらせて悪化したりしたらどうする。もっと大事に しろ……目は大切だ」 その様子に、 必死で五飛は言い返す。その様子が図星だと語っているも同然で、あやうく笑ってしまうところ だった。そんなことをした日には五飛の機嫌は完全に損なわれてしまうだろうから、かろうじて こらえるが、なんともかわいくてたまらない。 「なら、俺がさしてやろう」 真偽のほども分からない話だが、五飛はぎょっとしたように俺を見る。 五飛の後ろに周って、上向かせてみると、赤くなった目と、強い光を保ったもう片方の目が探る ようにじっと俺を見る。 「目は閉じていていい」 だから、目は閉じていていい。手早く目頭に1、2滴落とせば、目を開けた時に自然と入る。 目を閉じると、五飛は印象が変わる。あまりにも印象的なその目が閉じられると、ふっと彼を とりまく空気が和らぐ。まぶしすぎる光の光度を落としたように、その表情はやわらかい。 目を閉じている五飛には、触れたら壊れてしまいそうな、触れるのをためらわせるような、そんな はかなさがある。普段の五飛からは想像もつかなくて、見るたびに胸が騒ぐ。 「どうだ?」 細い睫毛を濡らす、涙のようなその雫を見た瞬間、なぜか五飛が泣いているような錯覚を覚 えた。 「目に触るな、五飛」 「何をする…!」 わずかに苦味のある、しょっぱいような目薬の味を手の甲で拭って、不機嫌そうにこちらを 見る。目薬のせいだけでない理由から潤んだ瞳と、子供のようなその仕草に興を誘われて、もう
一度近寄ってみる。 左眼と同じくらい真っ赤になってそう怒鳴って、五飛は部屋を飛び出して行ってしまう。 …ふと思いついたその例えがあまりにもあっていて、思わず一人笑いをした。 数日後、廊下でカトルに呼び止められた。 「ウーフェイ、目が赤いでしょう?今、せっかくいい薬をあげたのに置いていってしまったんだ。 悪いけど渡しておいてくれないかな?」 「五飛は目薬が苦手らしいからな…」 「でもウーフェイ、それを僕の目の前でさしてたよ?よく効きそうだって言ってたし」 あれから何度も目薬をさしてやっている。自分ではどうしてもやろうとしなかったから、出来ない のだろうと勝手に思っていた。 「…自分ではさせないんじゃないか…?」 ますますわけが分からない、と言いたげにカトルが笑う。 「…そう、だよな…」 「当たり前だよ、トロワ。そんなこと言ったらウーフェイに怒られちゃうよ?」 …――― 確かにおかしい。 五飛は、カトルには苦手だとは言わなかった。自分でつけることもできた。 苦手だ、と俺には言った。自分でさそうとしなかった。 考えている内に、ひどく楽しいことに思い当たって、笑みが浮かんできた。 …もしかして、五飛は俺に甘えてくれていたのだろうか? 素直でない五飛の愛情の示し方は、いつも後になってからそうと気付くことばかりだ。 もう五飛の目は大分よくなってきている。 …―――― 今度は何を言われても放してやるつもりはない。 |
ぎゃ〜〜〜vvvvvラブラブ3×5★ 2000.12.17に、ゆきのんさんから頂いたキリ番リクでのイタダキモノですvvv トロワが変態だと嘆いていらっしゃいましたが、大丈夫、心配要りませんよ!……少なくとも私のトロワよりかは変態じゃないし(苦笑)。 |