◆◆◆NATIVE * VISION◆◆◆

◆◆◆NATIVE * VISION◆◆◆




 目。それは外からのデータを脳に伝える器官。

 レンズ。コーニア。アイリス。ピューピル。アンテリアーチェインバー。レティナ。
視神経へとつながって、脳のオクシピタルローブが情報を受け取り、そして整理する。

 結果、見える。
見えなければ、戦えない。敵を捕らえるための、味方を認識するための、重要な器官。

 俺にとって目とは、それだけの器官だった。

 …―――― 五飛に出会うまでは。


* * * *


 ガンダムパイロットは皆、感情を隠すのが上手い。その瞳に感情を表さないことができる。
ヒイロはいうまでもなく、デュオも饒舌さを装いつつも、あの目は本当に大切な事は語らない。
カトルは、育ってきた環境のせいか、見せたくない感情は、隠すことができる。あのアクアブルー の目は、優しいだけの目ではない。

 けれど五飛は違う。まっすぐに人を見て、そして何も隠さない。
 あの黒い瞳にはっきりと感情を映し出す。激しい感情であればあるほど漆黒の瞳は輝きを 増して、相手を射る。覇気の弱い者や心に後ろ暗いもののある者は見返すことができないほどに それはまっすぐな目だ。

 実は漆黒に見えるあの瞳は、間近で見れば至極黒に近い、こげ茶色をしていることを俺が知っ たのはごく最近のことだ。

 そのことは、近付かなくては分からない。それを知っているということは、それだけの接近を 許されたということで、もったいなくて誰にも教えない。

 俺以外は五飛の本当の目の色を知らなくていい。
 ……そんな独占欲さえ感じさせる、宝石のような目。

 あれほどまっすぐに俺を見る人は他にいない。最初は戸惑ったが、今では注がれて、一番 気持ちのいい視線だ。

 五飛に見つめられると、心の底の底まで見通されているような気分になる。そして同時に五飛 の目が、それが光を通すレンズでなく、五飛の心の一部でもあるような気がしてくる。

 …―――― それは本当にきれいな澄んだ瞳なのだ。


* * * *


 いつものように鍛錬に励んだ後、シャワーを浴びてさっぱりとした五飛が向かい側に座る。

 「ウーフェ…――――」
 声をかけようとして、途中で途切れたのに不思議そうに五飛がこちらを見る。
 「なんだ?トロワ」

 「お前…目をどうした?」
 なんてことだろう。
 ウサギよろしく左眼が真っ赤になっている!

 「ああ、さっき埃が入っただけだ。大したことはない」
 「こすっただろう?」
 近寄って見てみると、ひどく赤くなっていて、潤んだ目が普段の力強さを失って、はかない光を ともしている。こんなになっていれば痛むだろう。眼帯も必要かもしれない。

 「目薬があったな、確か。持ってこよう」
 そう言って立ち上がった。

 ところが。

 「いらん!!目薬はあまり好きではない」
 五飛はそんなことを言う。

 「好きとか嫌いとかの問題ではないだろう。こじらせて悪化したりしたらどうする。もっと大事に しろ……目は大切だ」
 「こんなもの放っておけば治る!!」
 目薬を片手に近寄ると、そう言って五飛は後ずさった。

 その様子に、
 「まさかとは思うが…こわいのか?目薬が」
 ちょっと思いついたことを口にした途端、
 「ば、ばかを言うなぁっ!!なぜそんなものを俺が……」

 必死で五飛は言い返す。その様子が図星だと語っているも同然で、あやうく笑ってしまうところ だった。そんなことをした日には五飛の機嫌は完全に損なわれてしまうだろうから、かろうじて こらえるが、なんともかわいくてたまらない。

 「なら、俺がさしてやろう」
 「だから、いらん世話だと…!」
 「五飛、こんな怪談を聞いたことがあるか?ある男が赤くなった目を放置しておいたらそれは人 の網膜の細胞を食べる細菌のせいで、朝、目覚めてみたら失明していたとか。…そんなことに なったらどうする?もうナタクにも搭乗できなくなってしまうぞ」

 真偽のほども分からない話だが、五飛はぎょっとしたように俺を見る。
 そして、やっと悪あがきをあきらめたのか、ため息をついて
 「好きにしろ」
 そう言い捨てた。

 五飛の後ろに周って、上向かせてみると、赤くなった目と、強い光を保ったもう片方の目が探る ようにじっと俺を見る。

 「目は閉じていていい」
 目薬をこわがる者にとって、無理やり目を開けさせられていることほどこわいことはない。こじ あけておいたとしてもどうしても反射的に目を閉じてしまうため、目薬はうまく入らない。

 だから、目は閉じていていい。手早く目頭に1、2滴落とせば、目を開けた時に自然と入る。
 ……五飛にはとてもいえないが、動物の世話をしていて学んだことだ。

 目を閉じると、五飛は印象が変わる。あまりにも印象的なその目が閉じられると、ふっと彼を とりまく空気が和らぐ。まぶしすぎる光の光度を落としたように、その表情はやわらかい。

 目を閉じている五飛には、触れたら壊れてしまいそうな、触れるのをためらわせるような、そんな はかなさがある。普段の五飛からは想像もつかなくて、見るたびに胸が騒ぐ。

 「どうだ?」
 目をしきりに気にしている五飛をのぞきこむと、あふれた目薬が重力に従って、つ、と頬を伝った。
 「…少々、しみる」

 細い睫毛を濡らす、涙のようなその雫を見た瞬間、なぜか五飛が泣いているような錯覚を覚 えた。

 「目に触るな、五飛」
 ぬぐおうと伸ばされた手を制して、そっと口唇を寄せる。雫を受け止めて、そのまま口付けると、 素早く逃げられた。

 「何をする…!」

 わずかに苦味のある、しょっぱいような目薬の味を手の甲で拭って、不機嫌そうにこちらを 見る。目薬のせいだけでない理由から潤んだ瞳と、子供のようなその仕草に興を誘われて、もう 一度近寄ってみる。
 「好きにしていいと言ったのは、お前だ」
 「それは目薬の話だろう?!」
 「さあ?そんなことは聞いていないが?」
 「ふ、ふざけるなあああぁぁっっ!!!」

 左眼と同じくらい真っ赤になってそう怒鳴って、五飛は部屋を飛び出して行ってしまう。
 まるで治療を終えた途端に、仕返しとばかりにこちらの手に噛み付く猫のように。

 …ふと思いついたその例えがあまりにもあっていて、思わず一人笑いをした。


* * * *


 数日後、廊下でカトルに呼び止められた。

 「ウーフェイ、目が赤いでしょう?今、せっかくいい薬をあげたのに置いていってしまったんだ。 悪いけど渡しておいてくれないかな?」
 そんな言葉と共に差し出されたのは、目薬。

 「五飛は目薬が苦手らしいからな…」
 わざと置いていったのだろう、とそう言うと、カトルが不思議そうに首をかしげる。

 「でもウーフェイ、それを僕の目の前でさしてたよ?よく効きそうだって言ってたし」
 「え?」

 あれから何度も目薬をさしてやっている。自分ではどうしてもやろうとしなかったから、出来ない のだろうと勝手に思っていた。

 「…自分ではさせないんじゃないか…?」
 「ええ?」

 ますますわけが分からない、と言いたげにカトルが笑う。
 「ウーフェイは多分、僕たちの中で一番器用な人だと思うよ?大体ガンダムパイロットともあろう 者が目薬もさせない、なんて聞いたこともないよ」

 「…そう、だよな…」

 「当たり前だよ、トロワ。そんなこと言ったらウーフェイに怒られちゃうよ?」
 変なトロワ、とカトルはくすくすと笑って行ってしまう。

 …――― 確かにおかしい。
 カトルに言われて、やっとそう気付いた。

 五飛は、カトルには苦手だとは言わなかった。自分でつけることもできた。
 …ということは…?

 苦手だ、と俺には言った。自分でさそうとしなかった。
 …ということは…?

 考えている内に、ひどく楽しいことに思い当たって、笑みが浮かんできた。

 …もしかして、五飛は俺に甘えてくれていたのだろうか?
 カトルにでなく、デュオにでもヒイロにでもなく、…――― 俺に。

 

 素直でない五飛の愛情の示し方は、いつも後になってからそうと気付くことばかりだ。
 それに気付いて、こんな風に幸せにひたるのも、五飛を好きになってから知ったこと。

 もう五飛の目は大分よくなってきている。
 今度目薬をさすときに、答えを返そう。

 …―――― 今度は何を言われても放してやるつもりはない。



ぎゃ〜〜〜vvvvvラブラブ3×5★

2000.12.17に、ゆきのんさんから頂いたキリ番リクでのイタダキモノですvvv
今となっては何番を踏んだのか覚えていませんが、有難うございます♪家宝にしなくっちゃ!(笑)

トロワが変態だと嘆いていらっしゃいましたが、大丈夫、心配要りませんよ!……少なくとも私のトロワよりかは変態じゃないし(苦笑)。
トロワはちょっと間抜けだったり、甲斐性無かったりする所がカッコイイので(注>誉め言葉です)全然問題無いです★
ゆきのん今からでも3×5作家として十分やっていけると思います……やる気は無いだろうけど(笑)。